真空管のご説明をしてまいりましたが、アナログコンピュータはアナログゆえに能動素子としての利用はデジタルコンピュータのようなスイッチングではなく増幅作用に用いるという見方でいます。
あのころ4極管の負性抵抗領域特性(ダイナトロン特性)は邪魔者でした。
あの特性区間は利用できないとなっていました。
トンネルダイオード(エサキダイオード)がトンネル効果の領域を積極的に利用したのに。
トンネルダイオードの利用の例としては(私の記憶の中限定では)日本電信電話公社さまが山の上に建てていた通信中継装置の中や、蒲田の富士通情報処理システムラボラトリ(後に富士通ソリューションスクエア)の前庭の池の脇の芝生にあったパラボラアンテナの制御装置に使われていたのを(応用事例として)知っているだけです。
あのパラボラアンテナは国鉄の蒲田操車場を過ぎるあたりの電車の窓から良く見えていたので東海道・京浜東北線をご利用されていたかたの中には目撃されたかたもおおぜいいらっしゃるでしょう。(1980年代。バブルの真っ盛り)
あれは沼津工場とのテレビ会議に使っていました。
詳しくはまたデジタルコンピュータに話が移ってから書きます。
これらの事例については当時の技術雑誌「雑誌FUJITSU」に掲載されていますので、あれのバックナンバー版をご覧いただいたほうが良いと思います。
ご興味がおありなら、このブログがデジタルコンピュータに入ってからかなり進んだあとの「世の中バブルまっさかりの頃のコンピュータ」のあたりでご紹介しようかと思います。
大型汎用機、UNIXのワークステーション、オフィスコンピュータ、そして各社入り乱れてのパソコン(日本電気のPC98シリーズがいちばん有名でしたが、富士通も4種類のアーキテクチャ乱立させて(ある部門ではモトローラ、ある部門ではインテル、ある部門では自社開発、ある部門ではザイログと同じ会社の中で乱戦状態、先週、元常務取締役の池田隆夫さんや元富士通総研社長だった長谷川展久さんたち先輩がたと飲み会をしてきましたが、あのころの話が出ました。思わずスマホを取り出して思い出話を動画で撮影してしまいました。ほぼ90歳の池田隆夫さんもあのころの話になると話し出したら止まりません)
あ、すみませんエサキダイオードとは直接関係ない話題を書いて混乱させました。
先ほどのエサキダイオードの応用話は通信機器への応用なのでコンピュータの歴史小説を狙っているこのブログの本題とは違います。
さて前回の4極管の特性グラフには負性抵抗領域があり、これを邪魔だと感じたかたがたは解決手段として5極真空管を作りました。
いつものように手描きの図をご覧ください。
いちばん上の左側の5極管基本接続の場合の陽極電圧・陽極電流特性(遮蔽アミ電圧を一定にしておき、制御アミ電圧を0ボルトのとき、マイナス1ボルトのとき、・・・と変えておいて、それぞれの陽極電圧を上げていって陽極電流の観測をしてもグラフにへこみがありません。その様子をいちばん上の絵の右側に描きました。
理由は4極真空管にアミ(グリッド)を1枚追加したからです。
3極真空管の場合はアミは1枚で制御アミだけでした。
4極真空管の場合はアミは2枚で制御アミと遮蔽アミでした。
5極真空管では更にもう1枚、抑制アミを追加したのです。
これをサプレッサグリッドとも言います。
この追加アミは陰極の電圧に保つようにつなぎます。
(陰極の電線につないでしまいます)
その真下は等価回路図です。
陽極と陰極の間に怪しげなμVskという仮想電源の絵を入れてありますが、これは真空管の動作に関係しませんので今は気にしないでください。
電子書籍でもっと話を深く掘り下げるときはちゃんと書きますから。
ではなぜ1枚アミを追加したら4極真空管のような負性抵抗領域が無くなるのでしょうか。
4極真空管のところで書いておくべきでしたが書かなかったので、いまここで書いてしまいます。
4極管の負性抵抗の原因は陽極で終端するはずの電子の一部分が遮蔽アミに吸い取られて抵抗値がマイナスに見えるわけです。
だからそうならないようにすれば解決するわけです。
はねっかえり電子を遮蔽アミのほうへ行かないように陽極と遮蔽アミの間に陽極より低い電圧をかけたアミを入れます。抑制アミ(サプレッサグリッド)と名付けられています。
陰極の電圧と同じにしています。
5極管の陰極と制御アミの距離関係は3極管と同じようなものです。
アミ電圧を上げていったときに陽極電流が増えますがそのグラフの傾きをgmという記号で表す慣習があります。
gmは相互コンダクタンスとも言われていてアミ電圧を上げていったときに陽極電流が増えるグラフの傾きがどれだけ急峻になるかの値です。
増幅のために真空管を利用する人にとってはこの傾きは急峻なほうが都合が良いです。
昭和30年代後半の東京オリンピック開催少し前ぐらいにはgmが10倍~100倍を超えるようなものまであったと思います。
でもこのころから真空管はあまり使われなくなっていました。
アマチュア野球の都市対抗大会でも川崎市の大手総合電機メーカーT社チームの応援団にはトランジスタガールが登場して人気を集めていました。
私の記憶では真空管ガールというのが応援席に登場した記憶はありませんから、あのころが真空管黄金時代の最後だったのかもしれません。
さて陽極電圧と陽極電流の関係を示すグラフを読むときに、真空管を解説してあるご本をお読みになるとき、記号がいろいろあって混乱なさるかと思います。
いまどき真空管のご本をお読みになるかたは少ないかもしれませんが、どうしても間違いや混乱のもとをお教えしておきたいので書いておきます。
真空管にはμとかRpとかrpなどと言った記号が良く使われています。
これらが入り乱れて読書するかたがたを混乱させます。
μはほとんどの場合「増幅率」ですね。
制御アミ(制御グリッド)に与える電圧振幅の変化が陽極電流の振幅でどれぐらい大きく変化してくれるのかの倍率を表すことが多いです。
たいていの本では本の最初のほうで説明しておいて二度と説明無しで数式がたくさん書いてあってその中に現れます。
数式展開を負ううちにどの記号が何なんだかわからなくなってしまうのです。(少なくとも私は・・・)
その中でも、ものすごくやっかいなのは真空管の本の中には同心円上に真ん中から陰極→制御アミ→遮蔽アミ→抑制アミ→陽極という並びの説明でrpをその同心円の中心(陰極がある)から陽極までの半径の距離(半径の長さ)にこの記号を使って説明しているご本が結構実在します。
でも、一般的にrpとかRpは真空管の陽極側の内部抵抗のことを表します。
ちなみに陰極側内部抵抗はRLとかrLとかで表すのが多数派です。
あくまでも多数派であって全部が全部そういう表現ではありません。
こういう記号の定義もわけがわからないうちに入り乱れて数式を展開するご本だらけです。
何か参考になるかなあと思って読んでみたのですが、技術的内容に参考となる部分はありませんでした。
ただ「わけのわからない記号をずらずら使って数式展開をたくさん書いてある本ばっかりですから[本を参考資料にするのは無理]だということがわかりました。
結局、昔中学で習ったときのノートを保管しているので、そっちのほうが良いということがわかりました。(ノートは自分で書いたものですから自分ではわかりますので)
それで陽極側内部抵抗のrPはものすごく大きいのでμ=gm×rpはものすごく大きいのです。
ここまで書いたからには上から2段目の等価回路の説明も書いておきます。
真ん中が電源回路であり〇の中に仮と書いておいたものは仮想電源です。
陽極内部抵抗と仮想電源が直列に並び、真空管の中の電極間の静電容量の全体をCという仮想的なコンデンサで表します。
陰極側内部抵抗のことを負荷抵抗というのでRLで表しています。
ご想像のとおりRは抵抗でLは負荷のことです。(負荷をLoadと言いますよね。頭文字です)
この等価回路の静電容量はほとんど無視できるほど小さいので無視。
そして陽極内部抵抗値は陰極内部抵抗に比べて圧倒的に大きいので
電流量をIとしますと・・・
I=増幅率μ×アミ電圧Vg/陽極抵抗値rp=陽極電圧かけていったときの陽極電流は特性曲線の傾きgm×アミ電圧Vg
出力電圧=-RL×I=-gm×RL×アミ電圧
電圧増幅度=-gm×RL
(くどいようですが、gmはアミ電圧を上げていったときに増える陽極電流量のグラフの傾きの急峻度であり、RLは出力側の内部抵抗値です)
手描き図の下のほうに「複合管」の例をいくつか書きました。
2本ぶんの真空管を1本にまとめてしまうという集積回路の真空管バージョンですね。
発想は集積回路(IC)と同じです。
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