お久しぶりです。
1週間のご無沙汰には理由があります。
ちょうど1週間前の月曜日(10月30日)にかつて日本で純国産電子計算機を開発していた唯一のメーカー・富士通が世界初のマルチプロセッサ機の開発に成功した(FACOM230-60機)ときに国際電信電話向けの完全デュアルシステム開発に成功したチームの生き残りメンバーで昔を振り返る会合があり、それに参加してきました。
その場で出た様々な話を忘れないうちに整理しておきたくて、当時の資料を引っ張り出して再度整理しなおしていました。
まだその作業は終わっていませんが、いずれこのブログにも書きます。
今ではスマホやゲーム機でもマルチプロセッサは珍しくありませんが、当時の素朴な技術で問題を克服して行った過程をお読みいただくと、今ではブラックボックスで中で何がおこなわれているのかわからないマルチプロセッサ制御の基本をご理解いただけるものと思います。
当時のメンバーは私も含めてすっかり高齢化していますので、あのころに苦労して克服した問題解決作業を書き遺しておきたいと思います。従って早くデジタルコンピュータについて書きたいのですが、まずはいまのように「ある年齢以上なら誰でも知っているけど忘れてしまっている」「若い人は見たこともないもの(やこと)」について簡単に記すことから始めています。
ある年齢以上のかたで、なんとなく思い出したけれど詳しいことは忘れたかたには懐かしく、若いかたで今では当たり前だけど中身がよくわからないからもう少し掘り下げて知りたいかたに向けて電子書籍を発行しようと思っています。
いま書いているような話も含めてこの先、何度か同じ表題の事物を繰り返し取り上げていろいろな角度や深度から説明を加えていきたいと思います。
現在のところアナログコンピュータの各種回路に使われていた基礎的なしくみやそれを構成していた部品やコンポーネントについて1周目のご紹介をしています。
もう少したちましたら、いよいよアナログコンピュータや初期のデジタルコンピュータの具体的な話に入っていきます。
まずはいつものようにこの文の下にある手描きの図をご覧ください。
いちばん上に三極管の記号と、4極管の記号の模式図を書きました。
コンデンサの記号が記入されています。
真空管の中にコンデンサが入っているという意味ではなくて各極間に発生する静電容量が浮遊しているという状況を図示しました。
上から2番目の図は4極真空管のガラスの中身を簡略化して「中心部に陰極を」外へ向かって制御アミ(制御グリッド)、遮蔽アミ(遮蔽グリッド)、そして陽極がいちばん外側にあります。(という様子を模式的に描いてみました)
この上にはゲッタと呼ばれる真空管の中で発生する余分なものを吸収する河童の頭のお皿みたいなのもありますから、実際の真空管の中はもっといろいろなものがあります。
信号の増幅作用は3極管で実現できているのに4極、5極・・と多極管が作られたのはさまざまな改良をしていく過程でいろいろ追加されたということです。
多極管を語るのはそういう改良の努力を語ることになります。
今日は4極管について上っ面(うわっつら)の話を語ります。
(4極管を改良した5極管・・・7極管を語ったほうが手っ取り早いのですけど、このブログは「コンピュータ開発黎明期の歴史小説」のつもりですから)
4極管は3極管に「遮蔽アミ(遮蔽グリッドとか遮蔽格子というほうが一般的かもしれません)」を追加したものです。
この遮蔽アミには陽極とほぼ同じ電圧をかけます。
陽極と制御アミの間を遮蔽するから遮蔽アミというのですが、これがあると3極管と何が違うのかを語ります。
(先輩から教わった話の受け売りです)
手描きの図の3極管の中の仮想容量(仮想コンデンサ)にCpgと書き込んであるのが見えますか?
「C」は静電容量を表すキャパシティのC。「p」は陽極板を表すプレートのp。「g」はアミの通称グリッドを表すgです。
4極管のほうにもありますよね。
3極管のCpgは制御アミと陽極の間の静電容量ですが、4極管のほうは陽極と遮蔽アミの間に発生します。
そうするとこの静電容量は3極管のそれよりも千ぶんの一かそれよりもっと小さくなります。
これの何が良いのかと言いますと、陽極とアミの間の静電容量が小さく、内部抵抗が大きく、増幅率が大きいのです。
増幅するための真空管ですから3極管より増幅率が大きいということは良いことなのです。
それだけではありません。
3極管では(いちばん上の図のように)陽極から出発した電気力線が制御アミへ行くときに陽極と制御アミとの静電容量は大きいため、陽極の交流がこの仮想的コンデンサを通って制御アミへ戻ってきます。
そうなると発振をおこしたりしていろいろと良くないことが起きます。
4極管では遮蔽アミのおかげで仮想コンデンサを通っても遮蔽アミにしか戻れません。
でも4極管にも泣き所があります。
(この泣き所を利用して全く発想の違った利用法がありますが)
それは手描き図の上から3番目の回路図で陽極電圧を増していくと最初は順調に陽極電流が増えていくのに、途中で(陽極電圧を上げて行っているのに)陽極電流が減り始めるのです。
でも更に陽極電圧を上げていくとまた電流が増えていきます。
この(一時的に)電流が減り始めてまた増えはじめなおす現象の理屈は厳密に説明できますが、ブログでは割愛します。
いつかコンピュータ開発の歴史物語本を出しますので、そのときに軽く理屈を説明します。
(本なら、皆さんが読むのが面倒臭いどうでもいい理屈は読み飛ばせますけどブログだと書いたものは順番に目に入ってしまいますからね)
こういう途中で抵抗値がマイナスに転じてまた戻る特性を負性抵抗特性とかダイナトロン特性とか言いまして、あの有名な江崎玲於奈博士のトンネルダイオード(エサキダイオード)にもこの特性は現れます。
今ではいろいろな利用方法はありますけれど、当時これは「欠点」だったらしく、4極管でのこれを改良した5極管へと交代して行ったのでした。
手描き図のいちばん下は3段目の回路で得たダイナトロン特性のグラフを描いたものです。
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